シンジケートローンの組成やクロスボーダー融資など、政府系金融機関で多様なファイナンス実務を経験した大塚友樹氏。2020年、当時まだコンサルタントが10名ほどしか所属していなかったブティックス株式会社 コンサルティング事業部に飛び込み、1年目で11件を成約し、歴代最短で当時の最年少グループ長へと駆け上がった。
後編となる本インタビューでは、大塚氏のキャリアをたどりながら、ブティックスにおける人材育成や評価制度、そして学習を後押しする企業文化を深掘りする。金融フロントで培った交渉力をどう再現し、“回転寿司モデル”の礎をどのように築き上げたのか -小松﨑がさらに話を聞いた。

コンサルティング事業部 / 副事業部長 兼 企業情報2部長
ブティックス株式会社 大塚 友樹
おおつか ともき
ブティックス株式会社 コンサルティング事業部 / 副事業部長 兼 企業情報2部長 早稲田大学卒業。2012年、商工組合中央金庫(商工中金)入庫。名古屋支店で法人営業を担当し、シンジケートローンやメキシコ・フィリピン現地法人向け融資、事業承継支援などを手掛ける。2020年ブティックス入社。1年で11件を成約し2年目でグループ長に昇格、3年目で部長、2025年に副事業部長。現在22名を統括し、研修設計や採用プロジェクトにも携わる。
1. 金融機関での経験:M&Aキャリアの礎について

1-1. ブティックス入社までの経緯
小松﨑:新卒当時は公務員インターンからスタートされたそうですね。どのような就職活動をされたのですか。
大塚:とにかく幅広く見ようと思い、公務員からベンチャーまで食わず嫌いせずチェックしました。早期選考でプライムに上場(現在)しているコンサル会社の内定を得て、優秀な同期に触発されたのが転機でしたね。最終的には「法人営業100%・中小企業支援にコミットできる」という点で商工中金を選びました。
小松﨑:商工中金ではシンジケートローンやリファイナンスなども手掛けられたと伺いました。
大塚:印象に残っているのは、8年返済のシンジケートローンを組成し、保証解除や債務一本化で事業承継の障壁を取り除いた案件です。本部や銀行団を回って支店長クラスにスキームを説明する中で、若くても、自身の力を磨けば大きな仕事ができるという自信がつきました。
小松﨑:M&A仲介へ転身した理由は?
大塚:融資はお客さまが生む利益が返済原資となる一方、M&Aは“動けば動くほど、お客さまが直接リターンを得られる”。このビジネスモデルの面白さに惹かれました。また商工中金でM&Aに関われる時期は異動次第であったので、より早く“バッターボックス”に立ちたいと思ったんです。
小松﨑:転職先をブティックスに決めた理由は何でしょう。
大塚:当時はM&A事業部が10名規模ながら案件数が多く、より早く案件を担当できる環境だと判断したからです。介護に特化して差別化を図っており、未経験でもやる気次第で抜きん出られると直感しました。
2. ブティックスでのキャリアパス:着実な成長と昇進について

2-1. 入社1年目で11件を成約できた理由
小松﨑:1年目で11件成約はすごいですね。まず何に着手しましたか。
大塚:まずは、テストやロープレなどの研修でした。また、入社後すぐに企業概要書のフォーマット整備プロジェクトにアサインされ、成長企業の勢いに驚くとともに、やりがいも感じました。
小松﨑:研修のロープレ以外で日々意識したことは?
大塚:上司に報告する際に想定される質問を先回りして潰す習慣ですね。指摘された内容を一覧化し、次の案件で必ず改善し続けました。
2-2. 苦戦案件をどう乗り越えたか
小松﨑:粉飾が発覚し全社が断った案件を成約に導いたそうですが、どう進めたのですか。
大塚:その案件は粉飾決算をしていたうえ、社長が病気で急に亡くなられたという再生案件でした。まずはステークホルダー間の利害関係を想像しながら、早期に根回しを進めつつ、後からどの方にも説明しやすいように逆算してディールを組み立てました。具体的には、会社全体の譲渡は難しくても事業譲渡なら可能性があると判断。行政データを活用した客観的資料を固め、金融機関にも債権カットを含めた交渉を行い、“処方箋”を提示して成約までこぎつけました。
小松﨑:赤字案件に対しても前向きに取り組むコツは?
大塚:買い手候補3〜4社と面談し、「自社の事業所に統合すれば黒字化が容易に見込める」「学習目的でも買いたい」など各社が注目するポイントを学習して、次の赤字案件に転用していくんです。成功パターンの反復が鍵ですね。
2-3. 早期昇進を生む企業文化
小松﨑:11件を成約した翌期にグループ長へ昇格。年上メンバーも含めてのマネジメントはいかがでしたか。
大塚:成果主義なので年齢は関係ありませんが、やはり自分の言動が“拡大再生産”される怖さを感じました。誰がやっても同じ成果を出せるよう標準化を意識し、研修プロジェクトにのめり込んでいったんです。
3. 人材育成への投資:充実した研修制度について

3-1. 8か月研修の設計思想
小松﨑:座学とロープレを経て、8か月で独り立ちする研修プログラムの狙いは?
大塚:当社では、入社後2週間〜1か月ほどは”座学研修”がメインで、座学や先輩コンサルタントとのロープレが含まれます。その後はOJT方式ですが、M&Aの各フェーズに対応した研修を順番にクリアしていかないと担当案件を持てない仕組みです。
「講義・テスト・ロープレ」による知識の習得⇒「実案件の資料作成・商談同席」による現場感の習得⇒「メイン担当として契約経験」という実務経験という段階を経ることで、実務能力の定着を図っています。 研修修了後は部長の直属の部下として独り立ちしますが、週次でKPI管理や案件会議があるので、都度相談しやすい環境です。
小松﨑:入社前に必要なスキルは高いレベルで求められますか。
大塚:基本的には一通りのスキルを身につけられる研修体制を用意しているので、必須ではありません。ただ、研修や実務に取り組む上で重要なのは「達成志向」や「実行力」ですね。もちろん、論理的思考力や顧客折衝力があれば早期独り立ちや突き抜けた活躍につながりやすいと感じています。
3-2. 成功パターンの型化と動画アーカイブ
小松﨑:ノウハウ共有はどのように行われているのでしょうか。
大塚:毎週の全体ミーティングで、成約案件だけでなく失敗事例も共有し、自由に質問を受け付けています。事例共有だけでなく、「財務DD」や「融資アレンジ」などのテーマ別勉強会も実施しています。勉強会は動画として、今後入社される方の研修メニューに織り込まれる仕組みです。
4. M&Aコンサルタントの業務と必要スキル
4-1. 一日の流れとチーム連携
小松﨑:独り立ち後の具体的な業務イメージやスケジュールを教えてください。
大塚:ディールの流れとしては、発掘(テレアポ)からクロージングまで一気通貫で担当します。売り手と買い手の両面対応があるので、スケジュールは案件のフェーズによって変わりますね。週に1回程度は出張が入り、出張日は1日外回りということが多いです。社内にいる日もWeb面談や問い合わせ対応が常にあります。帰宅時間は19〜20時頃がボリュームゾーンですね。
買手情報は社内の共有財産なので、特に買手情報については組織全体でオープンにしています。チームはエリア別に分かれているため、エリア内の買手発掘や金融機関との提携強化、さらにはCareTEX(展示会)へのブース出展などはチームで連携して進める文化があります。
4-2. 一気通貫型で求められる重要スキル
小松﨑:M&Aコンサルタントとして重要なスキルは?
大塚:まずは「自己管理力」が挙げられますが、加えて「後工程から逆算して行動するスキル」も大切です。初回訪問の段階からディールの後工程で発生しうる論点を把握して、適切なスキーム提案を行う。そうした逆算力が最終的な成約率を大きく左右します。
5. キャリアアップの可能性:多様な選択肢と早期昇進

5-1. マネジメントとスペシャリストの2コース
小松﨑:ブティックスでは累計10件成約後、マネジメントとスペシャリストに分かれる仕組みがあるそうですね。
大塚:はい。まずは10件成約の経験を積んでいただきます。通常は、10件を達成するとスペシャリストコースに進み、その後1期(1年)の目標を達成すればマネジメントコースを選択可能になる流れです。
ただ、研修卒業後1年以内に累計10件に到達するなど、成約スピードが早い場合は一気にマネジメントコースへ行けます。マネジメントは、部下の教育や行動管理を徹底する緻密さが必要なので、一定のディール経験に加えて、成功体験を仕組みに落とす再現力が求められますね。
小松﨑:件数目標やインセンティブについてはいかがですか。
大塚:大きく分けて3段階あります。
各研修に定量目標があって、満たせば合格。最後に「2件の契約」という項目があって、それをクリアすると独り立ち。
累計10件に至るまでは、売上目標はなく件数目標のみ。1年間に8件成約するのが目標で、達成翌月に300万円のボーナスが支給されます。
定量の売上閾値を超えた部分がインセンティブ対象で、自身の目標を達成すると固定給も昇給する仕組みになっています。
5-2. 大塚氏自身の今後の目標
小松﨑:副事業部長としてのビジョンを教えてください。
大塚:採用や育成にも関わっているので、後輩たちが一人前のコンサルタントとして早期に活躍できる仕組みをさらにブラッシュアップしていきたいですね。
そして将来的には、M&Aコンサルタントや副事業部長として積んできた知識・経験を、M&A以外の領域でも応用し、会社の成長に広く貢献していきたいです。
6. 成長を促す企業文化:学習と挑戦の奨励
6-1. 週次ミーティングと失敗共有
小松﨑:失敗事例も全社的に共有する風土があるとか。
大塚:そうですね。週次の全体ミーティングでは、成約報告だけでなく「どんな買手企業が実際に買収をしているのか」「ディールの論点はどこか」といった情報を共有して、他のコンサルタントに自由に質問できます。まだ経験していない場面を“追体験”できるので、新人も多くの実例をインプットできる。
それを顧客との会話に活かすことで信頼を得やすくなるんです。また、部長会議でも買手情報や競合他社の動きなどを部門横断で共有していますし、全員が原則東京オフィスに集まるので、気軽に情報交換しやすい環境ですね。
6-2.挑戦を後押しする社風
小松﨑:幅広いプロジェクトに挑戦できる環境とのことですが、大塚さん自身はいかがですか。
大塚:私は全くの未経験から飛び込みましたが、提携推進プロジェクトのリーダーやマネジメント、マーケティング、システム開発、研修、採用など多様な業務を経験させてもらいました。優秀なコンサルタントが業務範囲を広げることで個人のスキル向上にもつながり、組織力も高まる好循環が生まれています。
実務範囲が広がるほど経営者に近い視座で顧客と対話できるようになるので、コンサルタントとしての成長も加速しますね。
6-3.部門横断のプロジェクトと情報連携
小松﨑:他部署との連携はどのように行われているのですか。
大塚:毎週の全体MTGでは成約報告や失敗共有に加えて、業界の最新トレンドをテーマにしたミニ勉強会も実施しています。部長会議でも、買手企業の動向や競合の情報を週次で共有しており、常に横の連携が取れるようにしています。
さらに、全員が原則東京のオフィスに出社するので、顔を合わせてすぐ相談できる環境があるのも強みですね。
買手企業に関する情報を他部署からキャッチしたり、テレアポの方法について上司からフィードバックを受けたり、オフィス内でのコミュニケーションは実務に役立っていると思います。ときには、展示会を運営するメディア事業部から介護業界で関心の高いICT機器の最新情報を教えてもらったこともあります。
7.ブティックスへの入社を目指す方へのメッセージ
小松﨑:ブティックスへの転職を検討している方に向けて、一言お願いします。
大塚:一番お伝えしたいのは「やらない後悔より、やる後悔を選んでほしい」ということです。当社には8か月間の研修と案件管理の仕組みがしっかり整っており、未経験でも安心して飛び込める環境があります。
小松﨑:大手企業からの転職をためらう方もいると思いますが、そのあたりはいかがでしょう。
大塚:私自身も安定を捨てる不安がありましたが、M&Aの現場は金融・法務・会計・人事といった総合格闘技のような領域。前職で培ったスキルを横断的に活かす醍醐味がありますし、実際に事業承継や再生の現場に立ち会う達成感は大きいと思います。
小松﨑:最後に、実力主義で成果を出すためのポイントは?
大塚:結局「自分でバッターボックスを奪いに行けるか」に尽きると思います。研修と型は用意されていますが、一歩踏み出して自分の選択を正解にしていく覚悟が必要。そこさえあれば、キャリアの可能性は大いに広がります。
8.編集後記

金融フロントでの“目利き”と、組織の成長段階を走りながら仕組み化してきた姿勢。その両方を行き来してきた大塚氏の体験談には、ブティックスが組織を拡大する中でいかに人材育成を成長エンジンに変えてきたかが凝縮されている。
週次ミーティングや研修制度を通じて、ディールの知見が個人から全社へと瞬く間に広がる仕組みは特筆ものだ。今後は介護・建設・IT以外の領域にも“小規模M&Aモデル”を横展開し、さらなる産業の“承継”に貢献する可能性を秘めている。大塚氏自身が描く新たな事業領域の開拓にも、ますます注目が集まりそうだ。
【取材先】ブティックス株式会社

介護用品ECと展示会で培ったネットワークを活かし、2015年から業界特化型M&A仲介を開始。介護向け展示会「CareTEX」、IT・建設向け展示会「DXPO」で形成した買い手基盤は1万7,000社超。低手数料・短期成約を武器に業界を拡大し、2032年3月期までに時価総額1兆円企業を目指す。
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