介護用品ECと専門展示会で育んだ業界ネットワークを武器に、小規模M&A仲介で急成長を遂げるブティックス株式会社。その屋台骨を担うのが、入社1年で11件を成約し歴代最短でグループ長へ昇格した大塚友樹副事業部長だ。
政府系金融機関でクロスボーダー融資や事業承継支援を経験し、「日本にM&Aを根付かせたい」という思いで2020年に転身。介護・福祉業界特化型、業界最低水準の手数料でも年間成約171件を生む“回転寿司モデル”を確立し、建設・ITへ横展開する同社の戦略を深掘りする。

コンサルティング事業部 / 副事業部長 兼 企業情報2部長
ブティックス株式会社 大塚 友樹
おおつか ともき
ブティックス株式会社 コンサルティング事業部 / 副事業部長 兼 企業情報2部長 早稲田大学卒業。2012年、商工組合中央金庫(商工中金)入庫。名古屋支店で法人営業を担当し、シンジケートローンやメキシコ・フィリピン現地法人向け融資、事業承継支援などを手掛ける。2020年ブティックス入社。1年で11件を成約し2年目でグループ長に昇格、3年目で部長、2025年に副事業部長。現在22名を統括し、研修設計や採用プロジェクトにも携わる。
1. 介護・福祉領域に特化した理由

小松﨑: まず、介護・福祉領域にフォーカスした背景を改めてお聞かせください。
大塚: 当社は創業当初から介護用品ECや展示会「CareTEX」を通じて、介護業界の経営者と深いネットワークを築いてきました。さらに、高齢者人口が2040年ごろに頭打ちとなる見込みや、介護報酬(基本報酬)の減少傾向もあり、親族承継に前向きでない事業者が増えています。
「従業員を守りたいが後継者がいない」「黒字のうちに譲りたい」というニーズが強く、自然と譲渡案件が増えていきました。一方で買い手企業は、人材確保に時間がかかるオーガニック成長だけではスピード感が足りないため、M&Aを求める傾向が強い。当社は小規模・零細企業でも対応可能な料金体系を設定し、そうした潜在ニーズに応えられる体制を整えています。
小松﨑: 展示会の機能としては、どのような面が強みでしょうか。
大塚: 「CareTEX」は年間3万人が来場する商談型の展示会で、購買決定権を持つ層の参加が多いことが特徴です。そこで得られる情報から、売り買い両面において、M&Aに関するニーズをいち早くキャッチできます。こうした潜在ニーズを汲み取り、案件化へつなげられるのが大きな優位性です。
2. 建設・ITへ拡大した狙い
小松﨑: 続いて、介護以外の領域として建設やITに進出されています。どのような経緯で拡大されたのでしょうか。
大塚: 介護以外の業界においても、小規模M&Aのニーズが多くあることから、当社のビジネスモデルを全業界へ広げていくことを使命だと考えています。そのため、当社の顧客ネットワークを活かせる業界から順番に取り組んでいます。建設は高齢者施設の建築や改修工事で介護企業とつながりが強い。ITはメディア事業部が「DXPO」という展示会を運営しており、そこからの顧客データベースを買い手候補として使えるという点が大きかったです。
小松﨑: なるほど。拡大当初はどのようにノウハウを培っていったのですか。
大塚: 経験豊富なメンバーがまず建設・ITに特化したチームを立ち上げて案件を回し、成功パターンをマニュアル化しました。現在では研修プログラムに落とし込まれているので、新人が入社しても介護領域と同じように自然と知識を吸収できる体制ができています。この方法はすでに保育業界で成功しているので、今後さらに対応業界を増やしていく方針です。
小松﨑: 介護・福祉と同様に、業界のキーマンやコア情報を集めやすい仕組みがあるわけですね。
大塚: そうですね。ITや建設向けの展示会でも経営層と直接お話しできるので、譲渡や買収を意識している企業を早期につかむことができます。加えて、介護業界で作った“M&Aの型”も応用しており、それぞれの分野で着実に成約を重ねています。
3. 小規模案件での差別化
小松﨑: 小規模M&Aは他の仲介会社がリソースを割きにくい印象がありますが、そのあたりはいかがでしょう。
大塚: まさにそうですね。他の仲介会社は案件規模でフィルタリングすることが多いので、小規模案件は後回しになりがちです。当社はそこを積極的に受託し、手数料を抑えてサポートしてきた結果、小さな譲渡ニーズを多く掘り起こすことができました。
小松﨑: 感情面の調整など、小規模ならではの難しさはありませんか。
大塚: 経済合理性だけでは動かないケースが多いのは事実です。家族や従業員への根回し、経営者の想いなど、数字以外の要素をどう解決するかがカギになります。ただ、成約件数が多い分、コンサルタントが経験を積むスピードも速くなり、ノウハウがどんどんたまるんです。
小松﨑: 結果として「経験豊富なコンサルタント」が増え、他の仲介会社と差別化できるわけですね。
大塚: そうですね。小規模領域は決算書や税務資料が未整備でも、「そこから一緒に片付けますよ」というスタンスで伴走できるかが勝負です。他の仲介会社が入りづらいゾーンだからこそ、当社としては成約事例を積み上げてきました。
4. 年間171件の成約を支える要因について
小松﨑: 年間171件という成約件数は業界内でも高水準ですね。その理由をもう少し詳しく伺いたいです。
大塚: 1つ目は、やはり業界特化による強みです。経営者が抱える課題やメリットを深いレベルで理解しているので、オーナーからの信頼を得やすいですし、買い手への提案も的を射たものになります。
2つ目は、小規模案件も含めて積極的に対応してきた姿勢。感情面のサポートや資料整理など、こまめに手を動かしてトラブルを予防できる点は大きいです。
小松﨑: そこに1万7,000社を超える買い手ネットワークが組み合わさるわけですね。
大塚: そうです。専門のマッチンググループを社内に設置しており、「この案件ならこの会社が興味を持つはず」という打診をすぐに行えます。スピードが速いので、買い手と売り手の接点を多数作れ、結果的に成約件数が積み上がっていくんです。
小松﨑: 他の仲介会社が扱いにくいゾーンをカバーしつつ、買い手側の多様なニーズにも即応できる仕組みなんですね。
大塚: ええ。そこが「171件の年間成約」を支える大きな要因になっていると考えています。
5. “回転寿司モデル”と段階研修が実現する短期・高成約オペレーション

5-1. フェーズ分割の全体像
小松﨑: 御社独自の“回転寿司モデル”について、改めて概要を教えてください。
大塚: M&Aの進捗をステータスごとに分類し、todo管理と行動量管理の両面で管理をしています。todo管理は、「どの案件で」「いつまでに」「何をするか」を可視化する仕組みです。行動量管理は、「どのステータスで」「いつまでに」「何件必要なのか」を可視化する仕組みです。
小松﨑: その管理が徹底されることで平均成約期間の短縮や、コンサルタント1人あたりの成約件数が多い仕組みが実現できているわけですね。結果としてコンサルタント一人当たり、年間5~10件の成約を実現することにつながっています。
大塚: そうです。迷ったら「今どのステータスにある案件が足りないか」を見ればいいので、行動量を補強しやすい。結果としてコンサルタント全員が年間5~10件の成約を実現することにつながっています。
5-2. 5段階研修と早期独り立ち
小松﨑: 新人が8か月で独り立ちできるという研修の流れも特徴的ですね。どんな仕組みですか。
大塚: レベル1〜5に段階をわけて、電話アポから、商談同席、企業評価、買手向け提案、エグゼキューション周りの研修、単独担当と進みます。トップ面談に20件同席するなど明確な合格基準を設定しているので、未経験者でも着実に実務を学べるんですよ。
小松﨑: 実際の案件が多いからこそ、リアルタイムに体験しながら学べる、と。
大塚: そうですね。先輩の案件をロープレやOJTで同席しながら、介護業界の独特な用語や経営者同士のやり取りを短期間で身につけられます。建設やITに広がった今も、基本的な研修ステップは変わりません。
小松﨑: 研修後も週次の案件会議や全体ミーティングがあると聞きました。
大塚: はい。成功事例や失敗事例をその都度共有し、アーカイブを作成しているので、入社タイミングが違う方でも同じナレッジをキャッチアップできるようになっています。
5-3. 成約スピードと低手数料
小松﨑: 業界最低水準の手数料と伺いましたが、それでも収益を確保できている理由は?
大塚: 案件単価は低めですが、成約スピードが速いので件数を積み上げやすいんです。また、2025年3月期に通期で在籍しているコンサルタント1人あたりの平均売上は7,000万円ほどに達していて、最低手数料を高めに設定している他社仲介と同等かそれ以上のレベルになっています。
小松﨑: 多件数を回していける仕組みがあるからこそ、低手数料でも十分収益化できるわけですね。
大塚: そうです。また、収益確保はもちろんですが、M&A未経験で入社した方であっても、成約経験を多く積むことで、早期に成長できる環境にもつながっているので、非常に良い循環だと思います。
6. 展示会事業のCareTEX/DXPO連携が生む買い手ネットワーク

小松﨑: 買い手ネットワークとして1万7,000社以上を保有しているとのことですが、展示会が強みなのですか。
大塚: そこは大きいですね。CareTEXやDXPOは商談型で、購買・投資判断ができる層が多く来場されます。アンケート等でM&Aの関心度を確認していますし、我々M&Aコンサルティング事業部も出展していて、現場で直接、M&Aに興味を持っているお客様にアプローチできるので買い手層を広げやすいです。
小松﨑: そういう元気な企業が集まる場でM&Aの話を自然に持ちかけられるわけですね。
大塚: そうです。単純に買い手マッチングに有利というだけでなく、売り手企業からも「こんな買い手がいるなら話を聞きたい」と思ってもらいやすい。展示会が、売り手・買い手双方の接点になっているのが特徴ですね。
7. 今後の成長戦略:新たな市場への挑戦について
小松﨑: 2032年3月期までに時価総額1兆円を目指すと伺いましたが、どういう道筋で到達を図るのでしょうか。
大塚: まずは、ブティックスとして、新規事業の立ち上げや買収を通じて、既存顧客である介護業界やIT業界に対して、M&Aや展示会以外のサービスを広げていくこと。M&Aコンサルティング事業部としては、介護やIT以外の業界でも、“小規模M&Aの型”を拡大し、さらに実績を積み上げていきたいと考えています。
小松﨑: 買収した企業の経営にも関わる予定があるのですか。
大塚: 可能性はあります。実際に、コンサルティング事業部(M&A仲介事業)は人材輩出事業部になっており、過去にも、コンサルティング事業部出身のメンバーが、買収した会社の経営に関与した実績もあります。
小松﨑: 介護業界と同じく、他の業界でも、小さい案件を積み上げてまず信頼を獲得してから、より大きな舞台へという流れでしょうか。
大塚: はい。介護業界で培った流れを他業界にも再現するイメージです。M&A教育の仕組みが整っているので、新人が入っても8か月で独り立ちでき、さらに年間成約171件を超える成約を支える体制を全社的に強化していきます。
8. 編集後記
ブティックスが年間成約171件という高い成約実績を維持している背景には、業界特化で培った専門知識と、小規模案件にも積極的に対応する姿勢があるようです。介護・福祉領域は高齢者人口のピークや報酬減少などの構造的課題を抱え、人材確保の面でも買い手ニーズが強い――こうした動向を低手数料と短期成約の仕組みで巧みに取り込んできたのが印象的でした。
また、“回転寿司モデル”に代表される標準化と、5段階研修など手厚い育成を組み合わせることで、未経験者でも短期間で専門ノウハウを習得できる点も同社ならではの強みといえます。展示会との連携により、売り手・買い手双方が自然と集まる環境を整備できるのも、大きなアドバンテージでしょう。
次回の後編では、大塚副事業部長が政府系金融機関からM&A業界に転じた経緯や、入社1年目で11件成約を達成した裏側、人材育成と評価制度の仕組みなどを深掘りします。未経験からM&Aコンサルタントを目指す方や、新規領域への進出を検討する企業にも、示唆が多い内容になっておりますのでご期待下さい。
【取材先】ブティックス株式会社

介護用品ECと展示会で培ったネットワークを活かし、2015年から業界特化型M&A仲介を開始。介護向け展示会「CareTEX」、IT・建設向け展示会「DXPO」で形成した買い手基盤は1万7,000社超。低手数料・短期成約を武器に業界を拡大し、2032年3月期までに時価総額1兆円企業を目指す。
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